研究内容 :確率統計解析と金融・保険への応用 & SEM project

確率統計解析研究 (Stochastic and Statistical Analysis)

我々の研究室は保険やファイナンスの問題を念頭に、確率モデルの構築からその統計解析までを一つの研究の流れと捉えてモデルの実用化に重点をおいた研究を行っています。

 世の中のランダムな動きをもつ時系列的な現象は、数学的には確率変数の列としてモデリングできます。例えば、時刻t におけるある株価をS_t と書くことにすれば、S_tは確率変数で、時刻tの変化に対して刻々と“ランダム”に動くグラフが描けます。このような確率変数列の族S = {S_t:t≧0}を「確率過程」と呼び、その一つの実現値として描けるグラフを「パス」と呼びます。

標準ブラウン運動のパスの例

 確率過程に対する理論研究は「確率解析」と言われ、ブラウン運動やポアソン過程といった代表的な確率過程から始まり、マルチンゲール理論確率微分方程式の理論などに発展していき、さらにパスが連続か不連続かといった発展の方向もあります。我々の研究室ではこのような道具を用いた現象のモデリングとその理解を最初のテーマとします。

 このような確率過程の理論的基礎については、学科の専門科目「確率統計概論」「確率過程論」「ビジネスと確率の数理」「時系列解析」といった科目や研究室のゼミを通してその基礎を学習します。(応数の科目表はこちら

 

 さて、確率過程を用いて現象のモデルを作るとき、かならず未知パラメータが出てきます。例えば、株価の動きはある種の確率微分方程式の解としてモデル化されることが多いですが、株価は上昇傾向にあるのか下降傾向なのかを決めるパラメータ(ドリフト)や日々の株価の上下変動の大きさ(分散)を決めるパラメータ(ボラティリティ)などが未知パラメータとして現れます。これらは当然予め知ることは出来ないので、過去の観測や様々な外的要因を考慮して統計的に決定する必要があります。我々は、主に過去データを利用して各パラメータの“推定量”を構成し、その推定量の良さを数学的・統計的に説明する研究もしています。これが「数理統計学」で、当研究室の第2のテーマです。このような推定量の数学的性質を調べる際にも確率解析の道具が役立ちます。

 我々の研究室では上記2つのテーマを保険数理やファイナンスへ応用することにも関心を持っており、これが第3のテーマです。例えば、保険会社は保険料を徴収しながら、事故等が起こると保険金を支払い、余力があれば契約者配当などを行います。したがって、会社の資産は確率過程としてモデリングできます。保険会社はこのような資産モデルを使って、破産確率などの破産リスクを計算しながら配当戦略や再保険戦略を練ることができます。

保険リスク過程と「破産(ruin)」のイメージ

 最近では,「生命エネルギー仮説(Survival Energy Hypothesis)」に基づいた死亡率のコホート別推定問題も主要なテーマとして,SEM(Survival Energy Model)の開発とその計算プロジェクト(SEM project)を遂行しています.

 SEMは人間が持つ(であろう)生命エネルギーの確率モデルで,これによって生まれ年(コホート)ごとに寿命分布を推定できるShimizu Labによる全く新しいコホート別死亡率推定法です.詳細は,下記「SEM Project」のページを御覧ください.現在,1937年生〜1980年生の日本人の男女別死亡率関数(寿命分布)が利用可能です.