モントリオール在外研究日記(月記?)


Sainte-Héléne島から見たモントリオール・ダウンタウン

この度,いろいろあって一念発起し,保険数理研究のため渡航する決意を固めた私は,
保険関係の国際学会をはしごして作った僅かなコネクションを頼りに,
カナダ・モントリオールにあるConcordia大学のJosé Garrido教授(下写真右)
にアタックし,受け入れを承諾して頂きました.
同時に学内のとあるプロジェクトに応募し,海外滞在資金獲得に成功.
ここにめでたく1年間の在外研究の機会を得ることができました.

Garrido教授はRisk Theoryにおける著名な研究者で,
国際的なRisk Theoryコミュニティのリーディング・パーソンです.
人格者であり,現在Risk Theoryの分野で活躍する多くの研究者が彼の弟子で,
彼自身はアクチュアリーの方には有名なPanjer教授の弟子です.
申し訳ないくらい親切な方で,おかげで有意義なモントリオール生活を送っています.

研究記録を兼ねて,旅の思い出などを徒然と綴っておきたいと思います.
今後留学を考える方の参考に,または動機の一つになれば幸いです.



4月−6月; 7月−9月; 10月−12月; 1月−3月

2011年3月〜4月2日
準備・出発・到着
 3月11日.東北大震災が起こりました.余震や原発などの問題もあって,諸外国の航空会社が成田発着便の運行を見合わせ始める中,不安を残したまま直前の準備に追われました.結局,飛行機は無事成田を発ったものの,それはいきなりの試練の始まりだったのです.

 4月1日(金).私は,妻と子供2人(当時4歳&1歳)の4人を連れての渡航だったですが,出発前々日あたりから,家族が次々とインフルエンザのような症状にかかりだしました.出発当日早朝,伊丹をなんとか発ったのですが,成田に着く早々医務室に駆け込みいきなり旅行保険を使う羽目になったのです.そこから8時間ほど待ち,ようやく飛行機に乗り込みました.しかし,ここから約16時間,地獄のフライトの始まりです.

・・・機内の状況はあまりに過酷なため詳しくお伝えできません・・・

 なんとか乗り継ぎ地のトロントへ到着.私はひどい熱・悪寒と戦い,スーツケース3つと,グロッキーな4歳の子供を抱きかかえ,ダウン寸前の妻はもうすぐ2歳の子供をベビーカーにのせ,荷物を抱えてトロントで入国手続き.ところが,こんな状況の家族にも,入国管理官は微塵も容赦しません.私のたどたどしい英語が不審だったのか,怪訝そうな顔をしながら「ほんとに研究者か?」「何を研究するのか?」「なぜ家族までついてきたのか?」など,長々と質問してきたのです.その間,下の子は泣き出すやら,上の子はダウンして地べたにうつ伏せで大の字状態,管理官の英語は早すぎて聞き取れないやら...これで1年間大丈夫だろうか...寒気も忘れて大汗かいて,なんとか入国許可が降りた時,乗り継ぎの飛行機は,既にモントリオールへと飛び発った後でした...

 伊丹出発から数えると25時間ほどを経て,瀕死の状態でたどり着いたモントリオールはまだ雪が残っています.翌日はアパートへの入居手続きですが,その前に娘を病院へつれていくことに.出発2日目にして,すでに2度目の旅行保険使用.入居手続きは妻に任せ,医療英語に恐怖しながら病院へ...ドクターに子供たちの下痢や吐き気,熱などの症状を伝えると,最初の質問はなんと,「お前の家は破損した原子炉からどれくらいのところにある?」でした.なんと放射能汚染を疑っているのです.さんざん問答した結果「水分を沢山与えて安静に」と薬一つもらえませんでした.娘は食べても飲んでも戻してしまうし,歩けないほどぐったりなのに?!私はてっきり点滴でもするに違いないと思っていたのに...別に薬がないとダメとは思いませんが,こんなに辛そうな娘を前に,せめて錠剤の一つも持って帰れたなら,気休めにくらいなったのになぁ...と,どっと疲れがでて,あとのことはあまり覚えてません.

 気がついたら,アパートで寝てました.   つづく...

参考:カナダでの就労ビザ取得は,研究者の場合(私費留学を除き)手続きが簡略化されるので比較的楽です.詳しくはこちら
  • 「カナダ雇用者からの招聘状」というのは,ホストの先生からのInvitation LetterでOKです.
  • 学歴・職歴の詳細は,HOMEにある私のCVのようなものを参考にしてください.
  • 子供がいる場合は,予防接種記録と出生証明書を携帯したほうがよいです.幼稚園などに入るとき必要です.
  • 大使館は,質問があればメールでも親切に受け答えしてくれます.
  • 私の場合は2週間ほどでVISAが郵送されてきました.

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2011年4月8日
First Seminar in Montreal
 モントリオール到着の翌週,落ち着く間もなくセミナーでの発表の機会がやってきました.前述のようなことがあり,やっと子供達の体調も戻ってきた頃で,こんな中で英語の講演準備をするのは気が滅入りました...
 
 モントリオールのダウンタウン周辺には,Actuarial ScienceやFinanceの学科を擁する4つの大きな大学があります.マギル大学(McGill),モントリオール大学(UdeM),ケベック大学(UQAM),そしてコンコルディア大学です.この4つが(隔週くらいで)金曜にMontreal Seminar of Actuarial and Financial Mathematicsという合同セミナーを開催しています.

 話の初めに東北地震のことを話しました.日本は地図で見ると非常に小さいし,大阪の位置を皆さんよくご存知でないので,大阪が震源から遠いといっても結構被害があったと思っている人もいて,大体の距離感を説明しておきました.大阪−東京間がだいたいモントリオール−トロントと同じくらいの距離だということで,納得してもらいました.モントリオールではほとんど地震がないので,相撲の横綱ですら「両足で立っていられなかった」という白鵬の談話を紹介しておきました.

 本題では,このころ考え始めていた破産確率のEdgeworth型展開に関するトピックを話しました.安全付加率(loading factor)をゼロに飛ばすという漸近理論で,批判もありましたが今後の新しい研究のアイデアも提示して頂き,個人的には有意義なセミナーになりました

 話は変わりますが,実は,今住んでいるアパートは4月だけの仮住まいです.こちらでは6月頃が引越しシーズンで,4月という中途半端なタイミングで入居するのが難しかったのです.だから5月にはすぐに引越しです.

参考:住居は以下のサイトで日本からオンラインで検索しました(世界中探せます).
http://www.sublet.com/

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2011年5月1日
引越し&保育園
 1ヶ月が経ち,新しい生活にもようやく慣れてきた頃,早々に引越しとなりました.新居はビクトリア調・築100年物件ということで,日本の感覚だと,すきま風など寒そうな家を想像しますが,さすがにここでは冬死んでしまいますから,断熱効果は抜群で温かい家です.写真はうちの近所です.このあたりの民家はみなこんな風で,モントリオールの代表的な風景です.


 しばらくして屋根裏にリスが住み着いているのがわかりました.このあたりはダウンタウンにもかかわらず,野良リスが沢山おります.

 家が落ち着いて,娘をデイケア(保育園)に通わせることにしました.カナダでもデイケアに通うのは空きがなく大変なようで,皆さん妊娠が判明した時点で,保育園のWaiting Listに載せてもらうのだそうです.この辺は日本より競争が激しそうです.最初は大学の付属デイケアに申し込んだのですが,やはり空きがなく,とりあえずWaiting Listに登録.その後,Google Mapのストリートビューで近所を探索していると,遊具のある庭を発見.行ってみると,果たして保育園でした.こんな時代になりましたね...しかも,4歳児の空きがあるというではありませんか!

 その保育園には妻が一人で見学に行ったのですが,私が仕事から帰ると「もう契約してきちゃった」とのこと.ところが,契約内容を妻に質問しても曖昧でよくわからない返事.「どういうことだ?」と問いただすと,契約書はフランス語で書かれていてさっぱりわからず,ひと通り英語で説明されたけど詳しくは理解できなかったと...しかも,そこは私立で保育料が高い!一人あたり一日$42(カナダドル).公立だと,(就労ビザがあれば)$7/dayですから6倍です.円高とはいえ1CAD$=90円前後.こんな状態で即決するとは...どうやら「ここにサインして」という誘いにのってほいほいサインしてしまった模様.ふつう夫に相談するだろ...(アコギな悪徳保育園だったらどうしよう)と思いながら,後日二人で出向いて話を聞くと,トルコ人一家が経営する園で,なかなか良い園長さん.「日本人は世界で最も礼儀正しい人種だ!だから日本人はいつでもWelcome!」と,日本人を無条件でベタ褒めする人でした.それはそれで,なんかプレッシャーなんですが....子連れの日本人も発見.話を聞いたらMcGill大学の偉い先生の奥様でした.どうやら安心です.

 後でわかったのですが,申請すればカナダ政府から援助が受けられるそうです.とりあえずService Canadaという役所に出向き,Social Insurance Number (SIN)を取得して,申請書類を揃えてRevenu Quebec(税務署のようなところ?)へ行きました.無愛想に説明されましたが,私も妻も完全に聞き取れず,二人のヒアリング結果を総合して,だいたいこんなことだろうと理解しました.要点は,結果は2週間くらいで郵送で通知,カナダででの収入がなければ75%援助,毎月15日に口座に振り込まれる,という感じです.とりあえず結果待ちです.

参考:カナダのDaycareは以下のようなサイトで探せます
http://www.godaycare.com/finddaycare

http://montreal.kijiji.ca/


 さて,研究状況ですが,4月のセミナーでコメントをくれたZhou先生(Conorida U.)と,レヴィ過程のscale functionの近似について,少し研究を始めました.破産確率の漸近展開を使ってscale functionの近似を考えるものです.

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2011年6月14-17日
IME2011 in Trieste
 6月には毎年Elsevierが主催するIME(Insurance: Mathematics and Economics)の国際大会があります.保険数理関係では最も大きな大会で,私もここ数年参加してきました.今年は風の街,イタリア・トリエステで開催されました.ここでは,保険数理の主要な研究者が数多く参加するので,情報の収集はもとより,コネクションを作るいい機会です.

 日本人の参加はまだ少なく,毎年のようにお会いするのは慶応大の今井先生だけです.今井先生とはIMEフレンドと言い合って,この学会でお会いするのが恒例になっています.しかし,日本ではまだお会いしたことがありません(笑).
 とある先生に言われました.「日本は確率論やファイナンスに強いし保険大国でもあるのに,なぜIME参加者がほとんどいないのか?日本の規模であれば,毎年20人くらいは来てもおかしくない」ということです.確かに日本では保険数理の学術的な地位はまだまだ低いと思われます.アメリカやスイス,カナダなどでは「Actuarial Science」とか「Actuarial Mathematics」などといった分野がFinanceと同じかそれ以上の地位を確保していますし,そういう学科も存在します.日本で「Finacne and Insurance」という名がつく集会があっても9割方ファイナンスの講演ですが,こちらでは半々と言った感じですし,セミナーでも「Insurance and Finance」と保険が先に来ることもしばしばです.他にもActuarial math.専門の学会も沢山あります.
 結局,「日本は伊藤先生以来ファイナンス人気が絶大だから」とだけ答えておきました.

Gerber先生と Shiu先生(中央)と今井先生(右)

 最近は写真のお二人が提案されたGerber-Shiu関数の一般化とその統計推測について研究しております.特にGerber-Shiu関数の一般化について,昨年のIMEで友達になったR.Feng博士(Wisconsin-Milwaukee)と一緒に仕事を始めました.彼もGarrido教授の弟子です.10月頃,Milwaukeeに招いてくれることになりましたので,そのあたりで集中的に共同研究する予定.
 来年のIMEは香港大学で開催されます.

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4月−6月; 7月−9月; 10月−12月; 1月−3月

2011年7月4日
JZAA and STATS
 6月末から7月頭にかけて10日間くらい,ダウンタウンのPlace-des-Artsにて毎年恒例のジャズのビッグイベント,Montreal JAZZ Festivalが開催されます.今年のビッグネームは,ブラッド・メルドーやクリスチャン・マクブライド,デイブ・ブルーベックなど.Montrealは超絶ピアニスト,オスカー・ピーターソンとその兄弟分,オリバー・ジョーンズの生まれ育った街.なんと2人は,私の住むアパートから徒歩10分くらいのとところで育ったらしく,その名もオスカー・ピーターソン公園というのがあります.ピーターソン・ファンとして感慨もひとしおです.

 Place-des-Artsはダウンタウンの中心的な場所で,シアターや変な(?)オブジェがあったり,その名の通りアーティスティックな所です.毎日お昼頃から夜中まで複数の野外ステージでフリーライブが続けられ,バーやライブハウス等では有料ライブもあります.モントリオールの夏は日が長く,9時になっても明るいので,真夜中まで多くの人で賑わいます.私は10日のうち5日間くらい通いました.


 これに合わせて,7月2-4日の日程でConcordia大学においてSTAT2011 CANADAが開かれました.6年に1度という応用統計学会だそうで,今年はたまたまConcordia大学が主催でした.Garrido教授がChairを務めるInvited Session: Statistical Methods in Actuarial Scienceで招待講演をしました.また,そこで会ったG. Willmot教授(Waterloo)にWaterloo大学のセミナーに招待してもらうことになりました.9月頃行って参ります!

 それから,5月ころ始めたZhou先生との研究(Scale function近似)は,ある程度結果を得たものの,ある事実との矛盾点が判明.どちらかが間違いなのか?どこがおかしいのか?まだわかりません.あと,Garrido教授の助言で,Renewal functionに関する近似の研究も始めました.


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2011年8月
夏休み
 モントリオールでは短い夏をおもいっきり楽しむために,8月には皆さん3週間くらい夏休みをとるようです.7,8月の大学は,わずかに講義が開講されているものの,学生たちにはインターンシップの季節です.教授達も休みか学会などで,ほとんど大学に顔をみせません.Garrido先生も,7月の幾つかの国際学会のあと,そのまま実家のあるスペイン(とはいえ,先生自身は生まれも育ちもモントリオールです)へ帰り,8月半ば以降まで帰ってきません.日本ではまずありえないですが,日本でもこういうふうに余裕をもって仕事できる環境が整うといいですよね...こちらの先生方は,仕事とプライベートをきっちり分け,6時頃になると皆帰宅し,家族と過ごす時間を大切にしているようです.日本のように「24時間戦えますか?」というような人をまず見ません(少なくとも大学では).雑務に疲れた...という感じの先生が見当たらず,常に余裕が感じられるところが日本とかなり違います.夕方は,ディスカッションのために近くのオープン・バーでビールに誘われる,という具合です.

 週末は晴れたらとにかくBBQです.我々もいろんな方のお家に呼んでいただいてます.カナディアンの夫は,いかに肉をジューシーに焼くかに命をかけるそうです.天気の良い日は,近くの公園などに弁当を持っていき朝食や夕食を食べたり,レストランはオープン・カフェやテラス席が当たり前.日の当たる席から埋まって行きます.冬が来る前に,少しでも太陽に当たるというのが,モントリオールの基本事項です.とにかく「Fine day, Go outside!」と言われました.モントリオールの夏はとてもドライで,日本のようにジメジメしてないので,たとえ気温が30℃あっても,(暑がりの私でも)あまり汗をかかず,とても爽やかなのです.自然に外に行きたくなります.「刺身が食えないから海外には行きたくない」と言い続けてきた私も,休日の朝,外で食べるモントリオール・ベーグルが好きになり,とある院生が「親方は大和魂を失ってしまった」と言ったとか言わないとか...

 さて,研究ですが,6月にIMEで発表した論文がだいたいできて投稿しました.SSRNにアップしてあります.最近は,更に一般にGerber-Shiu関数の展開などを考えてます.あと,Zhou先生との研究で出てきた矛盾点の謎が解けました.そのせいで,この研究はお蔵入りになる可能性もでてきました...山あり谷あり,といった感じです.

 来月から新学期で講義が始まります.コンコルディア大学にはActuarial Programがあり,付属のJohn Molson School of Businessと合わせてアクチュアリー関係の講義を沢山やっていますし,アクチュアリーになるためのいろんなサポートがあり,同好会のようなものもあるようです.講義はアクチュアリー試験の範囲をカバーしつつ,大学院志望者のために少しAdvancedな最近の話題に触れるという感じのようです.私も,Credibility Theoryの講義にでも顔を出してみようと思っています.


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2011年9月1日
デイケア
 以前,保育料のサポート申請をしたと書きました.ところが,6月末になっても結果が来なかったので,再度Revenu Quebecへ行きました.すると「お前のSIN(社会保険)のアカウントがまだ有効になってないからもう2週間待てとのこと).

 更に1ヶ月待って8月初旬,やはり返事は来ません.もう待てん!と再度乗り込み,どうなっているのか詰め寄ると,係のおばちゃんがしばらく調べて,「あなたは税金を納めてないから,まだあなたの情報がこちらに届いてない.今年の納税如何で来年から支払われるかどうか決まります」とかなんとか,そんなふうなことをいいました(たぶん).こっちは1年間の就労ビザで来て3月に帰ると初めに言ったのに,じゃあなんで申請時にそういわないのか!と怒りたくなりましたが,(いや,もしかして言ってたのかな?)とふと,自分のリスニング能力が低いことを思い出し,踏みとどまりました.しかし,まだチャンスがあり,160日以上保育園に通った場合,年末に申請して2月にいくらか返金されるという別の制度もあるらしいことがわかりました(デイケアの園長が教えてくれました).しかし,それも確証はありません.

 この頃,例の日本人大好き園長が「日本人の子はみんな賢いからいつでもウェルカム」などと,2歳児の空きを強引に1つ作ってくれて,「下の子もWelcome」と言ってきました(そんなエコ贔屓いいの?).返金されるなら下の子もデイケアに通わせたいけど,返金されなかったら1日$84(≒8000円)は我々には高すぎる...などと思いつつ,最初にWaiting Listに載せたコンコルディア大学のデイケアに電話してみると,なんと4歳なら9月から入れるということが判明!こちらは1日$7です.これで下の子は今までのデイケアに通わせても1日$7 + $42 = $49.最近ひどい円高だし,返金の可能性を考えた期待値(希望値?)は$25/dayくらい(?)と勝手に考えて,まあ良しとしました.

Concordia大学の付属幼稚園

 研究ですが,8月の終わり頃から,Garrido教授とインフレーション・レヴィ・リスクモデルの下での保険料計算や再保険戦略などについて考察しています.再保険料計算は,古典的なアクチュアリー的手法がよいのか,現代ファイナンス論によるリスク中立期待値がよいのか悩ましいですが,どちらにせよEsscher変換です.破産確率を最小にするような再保険最適戦略ができると良いのですが,制御理論については少し勉強が必要です...


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2011年9月6日
新学期始まる
 新学期が始まり,今までとは打って変わって,大学周辺に学生があふれています.こちらでは9月から新年度が始まるのですが,1年を3期(秋,冬,夏)に分けて,秋からスタートし,4年生の冬学期に修了というケースが一般的.夏は基本的に休みですが,学生たちはインターンシップなどで働きレポートを書くようです.しかし完全な休みではなく,講義もわずかながらやっています.また,冬からスタートすることもできて,その場合,夏のインターンシップ後,秋学期を修了して卒業となります.したがって,秋は新学期であると同時に,卒業する人もいるという形になります.時間割もまた日本とかなり異なり,75分の講義が週に2回とか,週1回だけど150分の講義だとか,そうかと思えば11:00-13:00と昼時を挟んでの120分講義があったり,コースによってまちまちでまだ規則性を見つけられません...

 私も向学のため,また講義の雰囲気を知る目的もあって,Garrido先生のCredibility Theoryの講義を聴講させていただくことにしました.この講義は主に3年生向け,火・木の週2回×75分授業です.Actuarial Programの一環で,受講学生は40人ほど.全てがアクチュアリー志望か,それに関連する研究者志望だそうです.

 講義初日から非常に驚いたことは,学生が日本と比較にならないほど積極的なことです.教授がなにか問いかけるような物言いをすると,わかる人は必ずそれに答えて発言します.教授が「Any question? or comments?」といえば,間違いなく複数の質問や,「こういう考え方もできるのでは?」というようなコメントまで出ます.また,アクチュアリー志望のせいか,実務との関連性などの質問も多くでます.講義を中断してでも,どんどん学生の手があがるのです.日本でこのような光景を見たことがありません.

 講義がある日の午後2時間くらいはオフィス・アワーとして,教授は研究室に待機することが義務付けられています.本講義の場合は,火・木の10:15-11:30なので,同じ火・木の14:00-16:00がGarrido先生のオフィス・アワーです.この間,学生がひっきりなしに質問にくるので,私も研究の話をしに行くことができません.これくらい積極的だと,授業する甲斐もあるでしょう.

 ちなみに,今学期のGarrido先生の講義はこれ1つだけです.こちらでは,教授よりもAssistant Professor(助教)のほうが講義義務が多いようで,日本と逆です.講義を専門にする先生も雇っているので,日本のように教授が年に3つも4つも講義することは稀だそうです.以前WaterlooのWillmot教授と話たときも,「今年は講義が3つもあって,多すぎる!」とおっしゃっていました.会議なども,日本と比べて非常に少ない印象を受けます.だから生活や行動に余裕が感じられるのでしょうか...准教授クラスの人は6年に1度,半年のサバティカルの機会が巡ってきます.この間,給与は通常の80%になる代わりに,講義等の義務が免除され,皆さん海外など好きなところにいって研究するそうです.もちろん,海外にいく義務もありません.今年,このDept. Mathematics and Statisticsではアクチュアリー関係の准教授2人がサバティカルで不在です.不在といってもどこかへ行っているわけでなく,普通に出勤してきますが,大学の義務は免除されているという状況です.同じ学科で2人の准教授が同時にサバティカル休暇をとるなど,日本の大学であり得るでしょうか?

 こうして見ると,日本では若い頃は暇で(まあ,暇でもないですが...)年をとるごとに忙しくなる傾向にあり,カナダでは,若い頃は結構忙しいが,中堅くらいになると時間ができるという傾向にあるようです(もちろん人によりますが,概してそんな印象です).若い頃に集中して研究することは数学のような学問では大事ですが,鈍臭い私のような者には,ある程度知識と経験を積んだ准教授くらいの段階でサバティカルを使って集中的に研究する方が,効率的な気もします.一般的にどちらがよいかはわかりませんが,私はカナダのシステムは良いと思いました.


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2011年9月14-17日
Seminar in U. of Waterloo
 この週,University of WaterlooのG.Willmot教授(写真左から2人目)を訪問しました.Willmot教授は,カナダアクチュアリー会の教科書の一つLoss Models: from data to decisionsの著者の一人で,この世界の重鎮の一人です.Garrido教授と同じPanjer門下で2つ年上ですが,偶然にも誕生日がGarrido氏とまったく同じで兄弟分だそうです.このWillmot先生も大変に親切で面倒見の良い方で,奥さんが日系3世で祖父母が広島出身という親日派です.

 Waterloo大学のあるKitchner/Waterlooはかなり辺鄙なところなので,家族子連れで行くのは結構大変でした.Torontoまで飛行機で行って,そこからレンタカーに乗るのが一番ですが,道も知らないカナダでの初ドライブが,セミナー前夜にTorontoから高速で...というのは結構プレッシャーで気疲れしました...

 セミナーでは,IMEの発表の拡張版で,再生型積分方程式の解に対する高次漸近展開とそのvalidityについて話しました.これはGerber-Shiu関数の漸近展開を含みます.Willmot先生も過去に似たような展開を考えたことがあったらしく,セミナー後もお部屋でいろいろとディスカッションして頂き,よいアドバイスを頂きました.

左からLandriault先生, Drekic先生, 私, Willmot先生, Cai先生

 セミナー中は,Willmot先生の奥様が,妻と子供たちを動物園や公園に連れて行って遊んでくれたり,他のスタッフの方々もきめ細かにお世話して下さり,大変有難かったです.

 Waterlooに寄ったついでにNaiagara Fallsに行きTorontoへ.途中,2度ほど間違えて反対車線に入るという恐ろしいミスを犯しましたが,Toronto-Waterloo-Naiagara-Torontoの長距離をなんとか無事走破しました.こちら(オンタリオ州)とモントリオールのあるケベック州とでは交通ルールが微妙に異なるそうで,例えば,オンタリオでは前方の信号が赤でも右折可能ですが,ケベックでは不可です.また,飲酒運転も,オンタリオではワインならグラス1杯くらいまで(Willmot氏談)だそうですが,モントリオールなら(周りを見ていると)もう少し飲んでも大丈夫そうです.Garrido宅でパーティーをした時など,結構な量のワインを飲んでいるのに,車で送ってくれたりするので,少々心配になります.

 当初,Toronto大学でも講演する話があったのですが,新学期の忙しい時期にピンポイントで予定を合わせられず断念.今回は観光のみでした.

参考:カナダでレンタカーする時は,国際免許証よりも日本のオリジナルの免許証の方が重視されますのでご注意を.日本領事館のHPに「ケベックで運転するにはケベックの免許証への書き替えが必要(国際免許証不可)」とありますが,実際に領事館に出向いたところ,(経験的に)書き替え不要だそうです(どういうこと?).実際にも,「オリジナルでいい」と言われました(有効期限など口頭で伝えるだけでOK.免許番号を控えてました).


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2011年9月23日
カナダ・アクチュアリー試験新制度
 2012年9月よりカナダのアクチュアリー試験が大きく変わるようです.ある一定レベルのアクチュアリアル・プログラムを持つ大学において,アクチュアリー試験科目と同等の学科の単位を習得した場合,対応するアクチュアリー試験科目が免除されるという制度が来年度より始まるそうです.こちらでも日本と同じく,働き始めてからアクチュアリー試験にパスするまで何年もかかるのが一般的だそうで,そのような労力と時間の無駄を省くための新制度です.
 
 この日,Concordia大学にもカナダ・アクチュアリー協会より調査員が派遣されてきて,確率,統計,生保数理,リスク理論,数理ファイナンスなどの各アクチュアリー関連科目の担当教員に対して,科目内容と試験レベル,合格ラインなどのインタビューが行われていました.この認定は来年度からの学生獲得に大きく影響するため,先生方もかなり前から準備し,詳細な資料を作成しておりました.もし,協会から要求されるレベルに達しない教科があった場合は,来年までに修正案を出し,要求に応えるそうです.
 
 アクチュアリー・プログラムの乏しい日本では,たとえ「数学」などの特定科目に限っても,まだまだ難しい制度でしょう.実際,大学で「数理統計」をしっかり習っても,具体的な計算練習が圧倒的に不足していて,アクチュアリー試験の「数学」にパスするのはそれほど容易でないと思います.数学科出身の者から見ると,双方のベクトルの向きは直交に近い印象すら受けます.つまり,数学科で「数理統計」を習うのと,「アクチュアリー・プログラム」として「統計学」を学ぶことは(一部の優秀な人を除いて)完全に別次元で考えないといけません.
 
 最近,日本でも少しずつアクチュアリー・プログラムを開講するところが増えてきていますが,日本でも将来このような制度へ移行できる日がくるでしょうか?アメリカ・カナダでは保険数理の研究者もアクチュアリー資格をとるのが定番で,Garrido教授らもアクチュアリー資格を持っています.特にアメリカでは,保険数理を教えるならフェロー(アクチュアリー正会員)になることが望ましいとされ,資格をとれば給料も増えるそうです(スイスでは実務経験が要るので,研究者のままではアクチュアリーになれないようです).日本がそこまで行くには,まだまだ保険数理の学術的な認知が低すぎます.ファイナンスだって数学者が参入して急激な発展を遂げたのですから,保険にもそのような発展の道があり得るはずです.とりあえず保険数理の研究者が増えるよう願っております.私は私のできることを一つづつやっていきます.


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4月−6月; 7月−9月; 10月−12月; 1月−3月

2011年10月23-31日
UWM & Halloween
 10月23日-30日まで,ウィスコンシン州のミルウォーキーを訪れました.University of Wisconsin-Milwaukee(UWM)のRunhuan Feng氏との共同研究が目的です.ミルウォーキーはあまり観光地の無い小さな都市ですが,水のきれいな土地らしく,MillerというU.S.では有名なビール工場の本拠地で,MLBにはBrewersという球団も持っています.暇な時間でぶらぶら観光できるかと期待していましたが,車がないと身動きがとれないので,幸か不幸か研究に集中するほかありません.

 Runhuanは私のホストGarrido先生の弟子の一人で,Society of Actuaries (アメリカ最大のアクチュアリー団体)のフェローであり,UWMの数理科学科のAssistant Professorです.彼は私より少し若い人ですがGerber-Shiu解析について良い研究をしており,昨年,トロントの学会で知り合ったのを機に,連絡を取り合い,少しづつ一緒に研究を続けて,最近1本,共著論文を投稿しました.今回は1週間ほどの滞在だったのですが,進行中の2本目の論文を仕上げるためやって参りました.

 滞在中は,朝から晩までランチもディナーも車の中も,彼が講義をする時間以外はほとんど彼と一緒でした(変な意味ではなく).フリーな時間には常に研究に関する議論ができましたし,食事には毎日車でいろんな所へ連れていってもらい,かなり友情を深めることが出来ました.これだけの時間を男二人でずっと過ごしたのは,多分学部生時代に学生寮に住んでいた頃以来だと思います.なんだか懐かしい気持ちにもなりましたが,逆の立場だったら,自分はこんなに親切にできないと思い,勝手に申し訳ない気持ちにもなりました....しかし,お陰で来る前に山積みだった問題がかなり解決ました.幾つか難問もあったのですが,同じ学科にいらっしゃるHans Volkmer教授にも助けて頂き,技術的な問題を1点だけ残して大体解決できました.ただ,この1点が問題となり,今は行き詰っています...もし,週末までに全て解決できれば,土曜にはシカゴへ日帰り旅行にでも行こうと話していたのですが,それは叶わず,結局土曜も午前中はその問題について議論いたしました.せめて半日くらいは休もうということで,土曜の午後からはMillerの醸造所へ見学に行き,3種類のサンプル・ビールをがぶ飲みし,それに飽きたらず,その後行った日本食レストランでも久々の日本酒をたらふく飲み,ランダム・ウォークで帰宅と相成りました.

 実はこの滞在中に,既に投稿中だった1本目の共著論文のレヴューが帰って来ました.なんと素晴らしいタイミングでしょうか!レヴュー結果はある程度ポジティブだったものの,かなりヘビーな要求も入っており,リバイズはなかなか骨が折れそうです.タフなRunhuan君お願いしますm(_ _)m

 カナダに帰った翌日はHalloweenです.この日が来るまでは,妻がルンルン気分で子供たちの仮装衣装を用意するのを尻目に,「ほんとに皆仮装したりするんだろうか?」,「いきなり家に行ってお菓子なんかくれるもんだろうか?」,「はめられてるんじゃないだろうか?」などと,かなり疑ってました.しかし,当日になってまずデイケアに行くと,みんな様々なコスチュームを着ており,ランチに外へ出ると,衣装をまとってレストランに来ている人もいたりで,どうやらはめられてなかったようです.夜は郊外にあるGarrido先生の自宅周辺を,Garrido先生と奥さんに連れられて子供たちと歩き回りました.すると,近所は仮装した大人や子供がウジャウジャおり,犬までも仮装し,各家では様々な趣向を凝らした装飾を家にめぐらし,お化け屋敷のようなものを作っていたりで,かなり楽しいものでした.

こちらGarrido家玄関

もちろんGarrido一家も仮装しております.子供たちのパンプキン型バスケットは,瞬く間にお菓子で一杯となり,一度袋に移し替えてまた貰いに行くという感じで,山のように集まりました.こちらの子供たちにとっては,クリスマスよりも楽しいイベントなのだそうです.すごいお祭りです.子供の頃,私のふるさと福井県では結婚式があると,「まんじゅうまき」というイベントがありました.お嫁さんを迎えた家の2回からまんじゅうやお菓子などをばらまくのです.小さい頃,結婚式の話を聞くと,まんじゅう拾いに遠征し,袋いっぱいのまんじゅうを持って帰ったのを思い出しました.最近ではとんと聞かなくなりました.今回,子供たちにこういう思い出を与えてあげられてよかったです.

 帰りの車の中では,お菓子を食べ過ぎた下の子(2歳半)が戻してしまい,車の中がチョコレート臭くてたまらないというオチが付きました.レンタカーなのにどうしよう...


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2011年11月11日
Remembrance Day
 カナダでの11月11日は「Remembrance Day」と言われ,この日の午前11時になると,各地で戦没者の追悼式典が行われます.オンタリオとケベック州以外は休日だそうです.この日が近くなるにつれ,街行く人が胸に赤い花の紋章のようなものをつけて歩いていくし,大学内でも先生方がみんな付けていたので不思議に思って訪ねてみると,戦没者の追悼の意を込めてつけるのだということでした.お店や街で募金という形でもらえるのだそうです.日本で赤い羽根をつけるのと似た習慣です.といっても,最近日本で赤い羽根をつけてる人はあまり見かけなくなりましたが...こちらではかなり多くの方が付けています.

 日本で「戦争」といえば,(少なくとも我々の世代では)第二次世界大戦の方を連想する方が多いのでは無いでしょうか.私も,最初聞いた時「戦没者」というので,てっきり第二次大戦を想像してしまい,なんで11月に?と思いました.終戦記念日なら8月ですから..ところが,よく聞いてみると,第一次大戦の戦没者追悼がメインであるということでした.

 第一次世界大戦の勃発は1914年.中学のとき「行く人(191)死(4)ぬよ」などと覚えさせられたのを思い出します.カナダは当時大英帝国下の連邦国家でしたから,英国の参戦にともなって自動的に参戦となったようです.日本はご存知のように日英同盟のために参戦したので,カナダとは同じ連合軍だったことになります.この終戦日が,1918年のこの日,11月11日の午前11時(スリー・イレブン)だったそうです.今年は更に2011年ということで「フォー・イレブン」のメモリアルデーです.

 話は変わりますが,この日,9月1日の記事で書いたデイケアの保育料返還申請の為に,再度Revenu Quebecへ行きました.子供が年間160日以上デイケアに通えば,年内に申請して,支払った保育料の75%が返金されるというやつです.我々の場合,第1子が3ヶ月ほど通って別のデイケアに移りましたが,そこから第2子が通ったので,合算して申請可能だと園長から入れ知恵され,意気揚々と役所へ出向きました.窓口で書類を見せて説明を始めると,しばらくして窓口のオバさんはこう言ったのです.「それは10月...いや,9月に締め切ったわよ,確か9月1日ね」....
「は?..締め切りは年末じゃないの?...でっ,でも第1子の分はだいぶ前に申請して,その続きですよ.」というと,「もともと,控除申請の為には,去年の12月31日にカナダにいないとできないのですよ.あなたは1年間のビジターだからダメですね.」という返事....なんか前にも似たようなことを言われた気もするけど,リスニングがまったく出来てなかった.もしかして前からそう言っていたのかもしれません.しかも年末締め切りだと思ってた.しまった...

 そのことをデイケアに伝えると「それはおかしい!以前はそういうビジターでも返金されたし,第1子の申請は9月以前だから問題ないはずだ!」というではありませんか.「Revenuとは常に交渉が必要だ」などと言われ,今度はデイケアの方が一緒に付いてきてくれることになり,再度抵抗しに行きました.今度は役人と助っ人の間でフランス語が飛び交う激しいやりとり.これはいけるか?と一瞬思いましたが,結局交渉失敗(法律なんだから,交渉してもどうにもならないとは思いましたけどね...).すべてが終わったかに見えました.

 ところがなんと,今度は3月に別枠で申請する機会があるそうです.しかし,この申請は会計士に代行を頼まねばいけないくらい申請が複雑なようだし,しかも我々は3月初旬にカナダを発ちます.細かい事後処理を日本からやらねばなりません.めんどくさいし,もう泣き寝入りしかないか...気力が残っていたらやってみようか...

 最後に研究の話を書き留めておきます.10月末にConordiaにLong先生(Frolida Atlantic University)が2週間訪問されました.先生は私と同じSDEの統計がご専門だったので,意気投合し,共同研究することになりました.small Levy noise modelの母数推定の研究を今一緒にやってます.他には,Manitoba大のSamuel君とレヴィ保険モデルの有限時間破産確率とCDSの価格付けについて共同研究も始めました.忙しくしています.

 モントリオール.最低気温は既に氷点下です.


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2011年11月23日
-10℃で大雪なのに救急外来
 前日の晩から2歳の子が泣き止みません.右腕をちょっと引っ張った瞬間から突然泣き出しました.みると右腕をだらんと伸ばしたまま動かそうとしません.ちょっとは動くみたいですが,動かそうとすると痛いらしく,それ以後ほぼ一晩泣き続けました.翌朝になっても状況は変わらないので,インターネットで調べてみると,泣き出した時の状況と症状から,どうやら肘を亜脱臼したのではないか,ということになり,モントリオールへ来て2度目の病院へ行くはめになりました.ところが,この日に限って外は下のような雪景色.朝起きたら吹雪でした.前の日までは全く雪なんてなかったのに...東京や大阪なら小学校は休校になっているでしょう.

自宅前

 まだ11月というのに今日の最低気温は−10℃.大阪なら真冬でもこんなことはありません.子供はコートを着るのも痛がるので大変です.吹雪の中,長女をデイケアに送った後,脱臼(dislocation),亜脱臼(sublaxation)など,関連する医学用語を幾つか予習し,近くにあるMontreal Children's Hospitalの救急外来へと向かいました.ここはMcGill大学付属で,小児専門の大きな病院です.

 通常は予約や紹介が無いと行けない大病院で,知り合いの話では,長時間待たされるのでまる1日潰れることを覚悟しないとだめだということだったのですが,運良く2時間ほどで医者にめぐり会えました.女性の先生は我々の話を聞くと,おそらく肘の亜脱臼だろうと言いました.私の中では,脱臼といえば元横綱・千代の富士であって,昔TVで見た記憶では,脱臼した千代の富士を親方が背中から抱えて,瞬時に体重をかけ,肩の骨をはめるという衝撃映像しか知りません.そのときあの最強の横綱ですら,激痛のあまり声をあげていたのを強く覚えており,こんな幼子の腕を一体どうしてくれるのだろうと,とだんだん不安になって来ました.同時に,こんなきれいな金髪先生が,そんなひどいことするはずない..と思いなんとか平常心を取り戻しました.

 先生は子供にクッキーを与えてあやしながら,おもむろに痛がる右肘を肩に向かって押し曲げたかと思うと,手首を軽く手前にひねるように回し,これを2,3度繰り返すと,「これで元に戻ったと思います.数分様子を見てみましょう」といいました.「これで終わり?」...この間,子供は当然泣きましたが,千代の富士ほどではありませんでした.数分後,子供は何事もなかったように無邪気に走り回っていました.痛みも全くないようで,「おいで〜」と言って抱っこしようとしたら,「Stop it!」と痛かったはずの右腕で叩かれました.

 あの不安は何だったのか...千代の富士を考えすぎました.子供に何かあったら早めに病院へ行きましょう.


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4月−6月; 7月−9月; 10月−12月; 1月−3月

2012年1月31日
Université Laval
 年が明けまして,モントリオールは毎日氷点下です.この冬の最低気温は,今のところ−25℃くらいですが,昼間は−10℃前後です.十分寒いのですが,モントリオーラーに言わせると今年は暖冬だそうです...最近は−10℃以下の生活にも慣れ,たまに−2℃くらいになると暖かく感じるから不思議なものです.つい先日,インターネットで「東京に大寒波」というニュースを見ていたら,「最低気温が4℃」...とかなんとかいう記事をみて笑ってしまいました.
 
 さて,1月最後の日,ケベック・シティにあるLaval大学のLeveille先生からセミナーへお誘い頂き,行って参りました.先生はGarrido先生の友人で,Garrido先生と共著の論文も何本か書いておられます.Laval大は基本的にフランス語教育であって,セミナーのHPを見ても多くは仏語を話す方ばかりが来られてます.そんな中,英語も怪しいような私を呼んでくれるとは...と思っていたら,学生さん達も英語がさほど得意でない(といっても日本の学生より話しますが...)ようで,だから私のように英語が怪しくても大丈夫なのか...などと妙な納得をし,お陰でいつもの英語発表よりは幾分気楽に発表できました.トークは夏にWaterlooで話したRenewal Equationの漸近展開の応用として,Gerber-Shiu関数の漸近展開による近似とその数値例を発表しました.まだ研究途中の話で理論的にはあまり完全でないのですが,数値的に良いので紹介することにしました.ただ,有名なクラメール=ルンドバーグ近似に勝つのは結構難しく,古典としてきっちり確立された方法論というのはやはり素晴らしいものだと改めて感心しました...

Léveillé教授(Laval大学)と

 オーガナイザーのLéveillé先生は,Garrido先生と同じくこれでもかというくらい親切な方で,ご多忙にもかかわらず,送迎や食事の細部に至るまで本当に気を使って下さり良くしていただきました.今回に限らず,この在外研究の間,いろいろな大学のセミナー・集会等に招いて頂きましたが,どの先生方も非常に親切で,みなさん立派な研究者である以前に人格者であられると感じました.これらの先生方から優秀な研究者が沢山育っている理由がよくわかります.

 この滞在中,多くの海外の研究者と出会う経験が出来て,研究だけでなく,人間としての自分の至らなさに気付かされる機会も多く,学ぶところの多い滞在になっていると思います.やはり,海外に出てみてよかったです.


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2012年2月22日
デイケアついに決着
 5月,9月,11月の記事などで再三書いてきましたが,5月から戦い続けてきたデイケア保育料の返還問題が,この度終に決着の運びとなりましたので,ここに記します.
 
 5月から子供たちをデイケアに通わせて以来,幾度と無く保育料の返還申請(Tax Credit for Childcare Expenses)のためにRevenu Québecに赴き,そのたびにことごとくリジェクトされること計5回.最後の望みは3月の申請だと11月11日の記事に載せました.我々の帰国間際で手続きが間に合わないだろうという話をデイケアにしたところ,デイケアやそこの顧問会計士のご協力を得て,申請に必要な証明書類を早めに作成していただくことになりました.どうやら審査が3月から開始されるようですが,書類の受付は2月でもしてくれるようでした.

 デイケアから言われるがままに必要書類へ記入.以前は,「会計士に代行を頼むくらい複雑だ」とかなんとか聞いてたのに,結構楽ではないか,などと思いながら記入を終え,今回もデイケアの方が助っ人として付いてきてくれて,万全の体制で鬼門Revenuへ参りました.今回もフランス語でやり取りしており,なんだかよくわからなかったんですが,ちょっと雲行きが怪しい模様...しばらくして言われた言葉に愕然としました.なんと提出する書類が違うというではありませんか!も〜いい加減にしてくれよ!と思いながら,新しい書類一式が掲載された冊子とそのガイドブックをもらってみると,ほんとに面倒そうじゃないか...途方にくれる私にデイケアの方は「また明日,会計士が来るから,その書類を書いてもらいましょう」とのこと...これで6回目のリジェクトです.

 我々に残された時間はあとわずか.もう他人には任せておけないと思い,意を決して書類のガイドブックを開き,格闘すること1時間.実は意外と簡単なんじゃないか?と思えてきました.申請書類は日本の確定申告のようなものです.確かに,カナダで生活し,カナダで収入を得ていろんな所得がある人はそれだけいろんな計算や金額の証明等が必要で,かなり面倒かもしれませんが,我々は1年だけの滞在で,カナダでの所得もゼロという特殊なケースです.したがって,ほとんど計算は必要なく,提出書類もごくわずかであることがわかりました.

 早速記入を始めると,ほとんどが$0.00の記入のみで,すぐに書類が完成.今度は一人でRevenuに乗り込むと,なんとあっさり書類を受理してくれました.我々の場合は少し審査が長くなりそうですが,2〜3ヶ月くらいで日本の住所へ返還金のチェック(小切手)が送られてくるそうです.我々のカナダでの収入は0ですから,保育料の75%が返金されます!

 終わってみるとなんと単純なことか,2種類の申請書とデイケアからの支払証明でよく,いままでの戦いは何だったのかと思えるようなあっさりとした終焉でした.まあ,まだきちんと小切手が送られてくるのかかなり不安ではありますが,人事を尽くしたので満足しています.

参考:今回必要になった書類は以下からダウンロードできます.
  • Income Tax Return Documents TP-1-V
  • 我々のようにカナダで収入を得ておらず,短期の滞在なら の2種類のみ提出すればOKのようです.
  • 申請にはSIN (Social Insurance Number)の取得が必須です.
    渡航後直ちにService Canadaで取得することをお勧めします.即日発行です.
  • 日本に帰ってからでも,上記からダウンロードして,郵送でRevenueに送りつければ良いようです.
    ただし,デイケアからの証明書は必須です.
 ※追記:2012年4月末頃にReveneu Quebecから,チェックが送られてきました!75%返金ゲットです.

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2012年3月2日
そろそろ在外研究終了です
 ついに3月となりました.4月1日にモントリオールにやってきて11ヶ月.当初はまるまる1年滞在の予定だったのですが,大学の業務の関係で帰国を早め,3月5日に帰国となりました.アパートは2月一杯で引き払っており,今ホテル滞在中です.この日は最後の出勤の日でしたが,コンコルディア大のW.Sun先生と共著論文について議論したり,午後からはモントリオールセミナーにも出て最後までしっかり働き,在外研究をやりぬいた思いです.結局,この1年で(執筆中を含めて)7本の論文を手がけることができました.内訳は保険数理関係で単著2本,共著4本,統計数理関係で共著1本,となります.その他,お蔵入りとなった研究が2本ありますので,大体月に1本くらいの割合で仕事ができました.まあ,実はまだ2本しか投稿しておらず,他はまだまだ修正がのこっているのですが...

 本滞在中はいろんな出会いと学びがあり,仕事では多くの収穫がありました.また自由な時間もたくさんあってカナダも大満喫し,そこそこトラブルも経験できて,海外生活を隅々まで経験したような充実感があります.英語は娘たちだけが上達しただけで,私自身はそれほど上達しなかった気がしますが...フランス語に至ってはファーストフード店のメニューが一部理解できる程度ですし...語学はそれなりに勉強するつもりで臨まないとただ暮らしているだけではダメなようです(少なくとも私の能力では).まあ,当初よりはいくらか経験を得て,カタコトでもなんとかなるということだけは悟りました.どれくらい悟ったかというと,最近よくカナディアンに道を聞かれます(そういうオーラがでているんだと思います).また大学の事務の人には「あなた本当にピュアな日本人?先祖にだれも外国人はいないの?」などと聞かれるくらいに悟りました.ただ,少し凹むのは,娘に毎日発音を正される事です.

 思えば,4月にモントリオールに来る際は,家族総出で病気になり散々な目に遭って瀕死の状態でたどり着いたものの,幾度と無く訪れた困難もことごとく乗り切って,なんとか無事にここまで辿り着き,感慨無量....などと思って,滞在中のホテルで悠々とこれを書いていた所,2歳の娘が突然嘔吐!顔色が真っ青...!やばい.これがデジャブってやつか?しかし,すこし以前と違うのは,5歳の娘がそれを見て「うわぁ〜!」ではなく「Yucky!」と言い放ったこと...吐いた娘がそれに応えて「Stop it!」と言ったことぐらいでしょうか.

 私も心なしか寒気がしてきたので,今宵はここまでにいたしとうござりまする.

 
※追記:娘の英語の98%は,帰国後約1カ月で忘却の彼方へ...

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